難病③多発性硬化症

MS(多発性硬化症)


Intro.
• 中枢神経系の白質のいたるところに炎症性の脱髄性病変が発生
• 多彩な神経症状が再発(増悪)・寛解を繰り返す
• 原因は不明であるが, 自己免疫的な機序が発症に関わると言われている
• グリア線維の増加による瘢痕・硬化性病変が特徴である
• 通常, 中枢神経系のみが侵され, 末梢神経系は障害されない
• 理由は不明だが, 高緯度地域で発症率が高い


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1. 空間的多発と時間的多発
1.1. 空間的多発
中枢神経系に複数の脱髄性病巣が見られること.
• 大脳のみならず, 小脳や脊髄にも脱髄が起こることがある
→ 大脳の脱髄 ≒ 脳卒中による症状みられることがある
→ 小脳の脱髄 ≒ 小脳病変による症状みられることがある
→ 脊髄の脱髄 ≒ 脊髄損傷による症状がみられることがある


1.2. 時間的多発
• 症状発症後, 寛解して炎症の改善が見られるが, 再び発症し炎症症状がみられ, これを繰り返す.
再発寛解型:症状が増悪と寛解を繰り返しながら, 全体としては徐々に増悪する.


2. 症状の進行と予後
① しばしば急激な視力低下(球後視神経炎)が起こるが, 1, 2週間で寛解する. しかし, また再発する場合もある.
② 次第に視力が回復しなくなり, 加えて脱力, しびれなど, 多彩な神経症状が出現し, 再発と寛解を繰り返しながら増悪していく.
③ 進行すると, 運動機能が低下し, 車椅子生活となる.
生命予後はあまりよくない




3. 病変の局在と症状
• MSでは, 大脳, 小脳, 脳幹, 脳神経(特に視神経*), 脊髄が脱髄によって障害される.
病巣は白質(脱髄 = 軸索 = 白質)にあるため, 灰白質の障害で起こりやすい大脳皮質症状(失語, 失行, 失認, 不随意運動, てんかん発作など)はみられにくい

[1] 大脳
精神症状(うつ, 多幸)など

[2] 小脳
眼振, 歩行障害, 測定障害, 構音障害, 企図振戦など

[3] 脳幹
MLF症候群(複視), 三叉神経痛, 偽性球麻痺など

[4] 視神経*
視力障害(球後視神経炎

[5] 脊髄
Lhermitte徴候(頸髄):頭部の前屈で, 背中から下方に電撃的な痛みが放散する(頸髄後索の脱髄)
錐体路徴候:脱力, 筋力低下, 腱反射亢進, 病的反射出現
しびれ, 脊髄横断症状(Brown-Sequard症候群), 有痛性強直性けいれん, 排尿障害(神経因性膀胱)

* 視神経は末梢神経であるにも関わらず障害される.
Why?
• 髄鞘の成分
  ➢ 中枢神経:主としてグリア細胞
  ➢ 末梢神経:主としてシュワン細胞
• MSではグリア細胞に障害(脱髄)が起こるため, 中枢神経系に病巣が見られる.
• しかし, 視神経は末梢神経にも関わらず, 髄鞘の成分がグリア細胞である. そのため, 視神経は末梢神経にも関わらず, MSによって症状が出現する.




4. 有痛性強直性けいれん(有痛性強直性攣縮)
• “こむらがえり”と同様の状態が四肢に起こる
• 発症契機:リハビリ, 体位交換など
• 脊髄障害の回復期に疼痛やしびれが先行して, 一側あるいはまれに両側の四肢が強直状態となる
• 数十秒以内に収まることが多い


5. ウートフ徴候
• MSは温熱に弱い:夏, 長風呂, 熱がこもるような筋肉トレーニングなどに弱い.
• 温熱により, 急激な筋力低下(急性増悪)が起こることをウートフ徴候という


6. 薬
• インターフェロン

国家試験問題


(1)脊髄小脳変性症に比べて多発性硬化症に特徴的なのはどれか (50a-24)
1. 痙縮
2. 運動失調
3. 嚥下障害
4. 構音障害
5. 有痛性けいれん

(2)再燃を繰り返している多発性硬化症患者において、ステロイドパルス療法後に介助での座位が可能となり、理学療法が開始された。適切なのはどれか。
1. スクワット運動を行う
2. 座位バランスの安定性を促す
3. 自主練習として伝い歩きを指導する
4. 疼痛を伴う時には温熱療法を行う
5. 重鎮を用いた筋力トレーニングを行う

(3)48歳の女性。2年前に多発性硬化症と診断された。これまで日常生活はおおむね自立していたが、1週前から視力の低下、両下肢の脱力が増悪し入院となった。薬物治療後に理学療法が開始されたが、視力の低下、両下肢の筋力低下および軽度のしびれが残存している。
この時点の深部感覚障害の程度を適切に検査できるのはどれか。
1. 運動覚試験
2. Romberg試験
3. 内果での振動覚試験
4. 自動運動による再現試験
5. 非検査側を用いた模倣試験



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解答_解説.pdf





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