神経から伝導してきた刺激はどのようにして筋に伝達されるのか. 筋に伝達された刺激はどのようにして筋を収縮させているのか.
この辺りをまとめて行こうと思います.
ではさっそく, この範囲の国家試験問題を見てみましょう.
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
________________________________________
(1)骨格筋の興奮収縮連関について正しいのはどれか (48-P61)
1. 筋小胞体からMg^2+ (Mgイオン) が放出される
2. 横行小管の中をCa^2+ (Caイオン) が運搬される
3. アクチンフィラメントのATPが加水分解を生じる
4. 筋線維膜の電位依存性のNa^+ (Naイオン) チャネルが開いて脱分極が生じる
5. トロポニンが移動して, ミオシンフィラメントの結合部が露出する
________________________________________
________________________________________
(2)筋収縮時に筋小胞体から放出されるのはどれか (42-22)
1. ナトリウムイオン
2. カリウムイオン
3. 塩素イオン
4. カルシウムイオン
5. マグネシウムイオン
________________________________________
いかがでしょうか.
化学嫌いの人は「うわっ、イオン...苦手だわ...」
そう思う人も多いのでしょう.
私もそのうちの一人でした.
しかし!
化学を勉強するほど複雑ではありません!イオンの登場人物も少ないですよ!
しっかりと整理してしまえばきっと大丈夫です!
ではさっそく, 筋収縮のメカニズムについてまとめていきます.
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
___________________________________________
(1)筋の収縮に関与するイオン
筋の収縮において登場するイオンは、①ナトリウムイオン, ②カリウムイオン, ③カルシウムイオンの3つを覚えれば問題ありません!ナトリウムイオンとカリウムイオンは神経の伝導でおなじみですよね. 新たに登場するのがカルシウムイオンのみです. まずはこの3つを覚えましょう.
・筋小胞体の中にあり, そこから放出されるカルシウムイオン(Ca^2+)
・神経伝導と同様に, 神経から筋へ伝わった刺激は, ナトリウムイオン(Na^+)とカリウムイオン(K^+)の電位差の変化によって, 筋線維の表面とその内部に刺激が伝導します.
登場するイオンはこの3つだけです.
まずこれを念頭に置いておきましょう.
___________________________________________
(2)筋の収縮に関与する筋原線維の構造
筋は「滑り説(滑走説, スライディングセオリー, スライディング現象)」などと呼ばれる現象により, 収縮が起こります.
このスライディングを起こしている構造を考えます.
前回範囲で紹介した通り, 筋原線維には2つのフィラメントがあります.
・細いフィラメントのアクチンフィラメント
・太いフィラメントのミオシンフィラメント
この2つのフィラメントの位置関係により, 横紋が見られ, 大きくA帯とI帯に区別され, 他にもH帯やZ帯があるとまとめました.
今日紹介するのはアクチンフィラメントには仲間がいたということです.
実は, アクチンフィラメント上には,
トロポニン と トロポミオシン
という仲間がいるのです.
アクチンフィラメントとトロポニンとトロポミオシンは鎖状に連なっていると考えてしまっていいと思います.(実際, トロポニンはところどころに分子が存在している)
________________________________
トロポニン
カルシウムイオンが大好きで, 結合しやすい特徴があります.
________________________________
トロポミオシン
名前に"ミオシン"が入っているように, ミオシンフィラメントに関与しています. 実は, アクチンフィラメントの表面には, "ミオシン結合部"という場所があり, それをトロポミオシンが隠しているのです.
また, トロポミオシンは, トロポニンとくっついていて, トロポニンがカルシウムイオンと結合するために動いてしまうと, このトロポミオシンも位置がずれてしまいます.
________________________________
つまり, 筋収縮に関わる筋原線維には, 4つの構造が重要であると言えます.
1. ミオシンフィラメント
2. アクチンフィラメント
3. トロポニン
4. トロポミオシン
ではどのようにして筋収縮=スライディング現象が起こっているのかをまとめます.
______________________________________
(3)筋収縮のメカニズム
1. 脳から指令が出た刺激は, 神経を伝導し, 神経筋接合部に達します
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
2. 神経筋接合部で伝達が行われ, 終板電位が発生します
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
3. 周辺の"筋細胞膜"に活動電位が発生します. この活動電位を発生させているのは, 主としてナトリウムイオンとカリウムイオンによる電位差によります. これは神経の活動電位と同じ原理です.
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
4. 筋細胞膜を伝導した活動電位は横行小管(T管)**にも伝わり, 細胞内へ伝播していきます.
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
**横行小管(T管)とはなんぞや!
横行小管とは, 筋細胞膜が細胞内に陥入したものであり, 細胞外液と連結します. 要は筋線維の表面だけではなく, さらにその内側にあるすべての筋原線維に刺激を伝導させるための仕組みだと考えれば覚えやすいと思います.
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
5. 横行小管を伝わり細胞内部へ伝播された活動電位は, 筋原線維を包む筋小胞体に興奮を伝達します.
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
6. 筋小胞体にはCa^2+(カルシウムイオン)が含まれており, 興奮が伝達されたことでカルシウムイオンを放出します.
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
7. 細胞内にカルシウムイオン濃度が上昇します.
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
8. 細胞内のカルシウムイオンは, 筋原線維を成すものの内の一つ, トロポニンと結合します
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
9. トロポニンがカルシウムイオンと結合するために位置をずらされてしまうと, トロポニンと連なっているトロポミオシンもアクチンフィラメント上の位置からずれてしまいます.
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
10. トロポミオシンがいたアクチンフィラメントの表面には, "ミオシン結合部"と呼ばれるミオシンフィラメントの頭部が接合する部分があり, その部分が露出します.
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
11. 露出したアクチンフィラメントの表面にあるミオシン結合部に, ミオシンの頭部(ミオシンヘッド)が接合し, クロスブリッジが形成されます.
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
12. クロスブリッジが形成された時, ミオシンヘッドにあるATP(ATPというより, ADPとPiの状態で結合しているもの)が利用され(Piを放つことでエネルギーが放出され), ミオシンフィラメントが首ふり運動を行います
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
13. ミオシンフィラメントが首ふり運動を行うと, アクチンフィラメントが結合している両サイドのZ帯が近づくように, アクチンフィラメントがミオシンフィラメントの中心方向へスライディングするように動きます. これが筋の収縮です.
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
14. 筋収縮後, Ca^2+(カルシウムイオン)は, トロポニンから離れて, 筋小胞体に再吸収されます.
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
15. Piを放出したことでADPとなった後は, クレアチンリン酸と結合してATPに戻り, 再びADPとPiの状態でミオシンフィラメントの頭部に結合します.
この一連の流れが筋の収縮と弛緩であり, 興奮収縮連関とも呼びます.
つまり, 筋の収縮はミオシンヘッドがアクチンフィラメントに接合し, 首ふり運動をすることで1つ1つの筋節の距離が短くなり起こっています.
_______________________________________
(4)筋収縮に伴う明暗構造の変化
筋収縮により, 骨格筋の横紋構造(=明暗構造)であるA帯, I帯, H帯, Z帯はどのようになるのかをまとめていきます.
<復習と補填>
A帯:ミオシンフィラメントがある部分
ミオシンの長さは変わらないので, 筋収縮をしようがしまいが, A帯が伸縮することはなく, 長さは一定です
I帯:アクチンフィラメント"のみ"がある部分
アクチンフィラメントとミオシンフィラメントは通常状態で重なっている部分があり, 筋が収縮するとスライディング現象によりミオシンフィラメントとアクチンフィラメントが重なる部分がさらに多くなります.
つまり, アクチンフィラメント"のみ"の部分であるI帯は, 筋が収縮すると短縮します
H帯:ミオシンフィラメント"のみ"がある部分
上記の通り, アクチンフィラメントとミオシンフィラメントは通常状態で重なっており, 筋の収縮によるスライディング現象で, ミオシンフィラメントを中心にした時の左右のアクチンフィラメントは互いに中心方向へ動きます.
つまり, アクチンフィラメントとミオシンフィラメントはさらに多くの部分が重なることになるため, ミオシンフィラメント"のみ"の部分であるH帯は, 筋が収縮すると短縮します.
Z帯:Z帯はアクチンフィラメントが付着する線状の構造物
スライディング現象により, 各Z帯間は短縮し, 筋節は筋の収縮により短くなります.
というより, 筋節が短縮することによって筋が収縮しています.
_______________________________________
いかがでしょうか.
なかなか難しい範囲だと思います.
まず抑えるべきポイントは以下の6つでいいと思います!
<確実に抑えたい6大ポイント>
1. 筋収縮の際に登場するイオンは3つある
2. 筋原線維を覆う筋小胞体の中には, カルシウムイオンが貯蔵されている
3. 横行小管は奥深くの筋原線維の筋小胞体に刺激が伝達するように, 筋細胞の表面が陥入している
4. カルシウムイオンが放出されることで, トロポニンの移動し, それによってトロポミオシンが動き, アクチンフィラメントにミオシンフィラメントが接合する.
5. ミオシンヘッドにあるADPとPiによってエネルギーが発生し, ミオシンフィラメントが首ふり運動を起こすことで, 筋収縮が起こる
6. A帯は一定の長さ, I帯・M帯は筋収縮により短縮, Z帯間である筋節も筋収縮により短縮する
以上になります!!
では, 冒頭の国家試験問題をもう一度見てみましょう.
________________________________________
(1)骨格筋の興奮収縮連関について正しいのはどれか (48-P61)
1. 筋小胞体からMg^2+ (Mgイオン) が放出される
2. 横行小管の中をCa^2+ (Caイオン) が運搬される
3. アクチンフィラメントのATPが加水分解を生じる
4. 筋線維膜の電位依存性のNa^+ (Naイオン) チャネルが開いて脱分極が生じる
5. トロポニンが移動して, ミオシンフィラメントの結合部が露出する
________________________________________
________________________________________
(2)筋収縮時に筋小胞体から放出されるのはどれか(42-22)
1. ナトリウムイオン
2. カリウムイオン
3. 塩素イオン
4. カルシウムイオン
5. マグネシウムイオン
________________________________________
いかがでしょうか??
もう分かりますよね!
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
正解と解説はこちら↓
解答_解説.pdf
以上で今回のまとめを終わりたいと思います!!
次回は少し変わって, 骨格筋の筋線維のタイプについてまとめていきたいと思います!!!
この記事へのコメント